日誌

四国大会優秀賞作品(意見発表Ⅰ類)

本年度、学校農業クラブ四国大会で優秀賞を受賞した作品を掲載します。

[発表題目]三好校果樹園から発信~ナシ栽培からの地域貢献~

 

[発表者名]食農科学科3年 曽我部晴菜

 

 「ナシうまかったけん,また買いに来たよ。」

 残暑厳しい去年の9月,額に大粒の汗を流しながら果樹園を訪れたおじさんの一言。私たち果樹専攻生が,ナシ栽培に青春をかけ始めた瞬間でした。

 私の学校がある三好市は,徳島県西部にあり,清流吉野川を挟んで,南には四国山地,北には阿讃山脈と険しい山がそびえ立つ地域で,その地形を生かし,ラフティング世界選手権,ウエイクボードの世界大会が開催され,世界的にもウォータースポーツが注目されています。

 斜面を利用した,クリ,ハッサク,アタゴガキなどの果樹栽培,お茶など様々な農業が盛んでしたが,他の地域同様,農業面では,高齢化,後継者不足で耕作放棄地などが目立ってきました。

 この現状をどうにかしようと,先輩達は特産のハッサクをおせち料理の器として利用するなど,さまざまな発想で町の活性化を目指してきました。しかし,地域のハッサクは樹齢が古く,更新時期を迎えており,町の活性化までにはいたりませんでした。先輩達は次の取り組みとして,ナシ栽培を始めました。理由は3つあります。1つめは,三好地域は夏場でも比較的涼しい気候のため,害虫の発生が少なく,生産コストが抑えられること。2つめは昼夜の寒暖差が大きく,通常より糖度の高い果実が栽培できること。3つめは,周辺にナシの大きな産地がなく競合しないことです。

 現在,私は先輩たちの意志を引き継ぎ,栽培技術の習得にくわえ,三好オリジナル有機肥料を施した,高品質なナシの生産を目指し,栽培研究と普及活動に取り組んでいます。昨年度までの成果では,果実の肥大と花そう葉の生育に比例関係があることや,果実の肥大開始時期と養分蓄積時期について確認でき,糖度は12度から15度あり,350gから450gの果実が生産できました。これは幸水という品種では「秀」にあたります。

 高い技術を習得するため,今年2月,鳴門市の農家を訪ねました。ナシ棚には,2本の主枝から出ている亜主枝が広がり多くの発育枝が生長し,主枝1本に対しての発育枝を稔枝・誘引して数分で1本のせん定が完了するのを目の当たりにしました。教えていただいた長年の技,どれもが驚くもので,私たちの意識がさらに高まりました。

 本校の果樹園では,平成22年度にナシ棚を整備,品種は幸水と豊水の2種類。本格的にナシ栽培に関わるようになると,天気とのにらめっこの毎日です。果樹の作業は天候に左右されるといっても過言ではありません。2年前,先輩達が育てたナシは収穫直前に襲った台風で全てダメになってしまいました。自分が手がけるナシが,お客様に届くまで気が気でありません。

 1番大変だったのは農薬散布です。減農薬栽培を目指す私たちとっては厳密に計画されたとおりにしなくてはいけません。散布日には,天候とにらめっこ。炎天下では大粒の汗。汗だくになっての作業でした。また,ナシの作業は顔を上に向けっぱなしのことが多く,首が痛い日々が続きます。

 しかし,そんな辛い作業も,調査のたびに大きくなる果実を見れば,着実に成長しているのが実感できます。

 また,見た目だけではありません。収入面でも確実に成果がでることが実証できたのです。「ナシは高収入につながる」。これを,ハッサクと比較してみると,ナシは0.6haの敷地に株間5m間隔で12本。4月から9月にかけて管理。それに対し,ハッサクは1haに30本,4月から2月まで管理。平成29年度,ナシは900玉の収量があり25万円の収入,ハッサクは15万円でした。ナシはハッサクに比べ,狭い敷地面積,少ない本数,短期間で高収入になることが分かったのです。今年度は1200玉で35万円の収入を見込んでいます。しかし,課題もあります。サイズ・果重を統一し,「秀」の割合を多くすることです。昨年は5割の「秀」を目指しましたが,3割程度。安定した収入を得るためのポイントは肥料配合の研究,適切な水分管理が必須です。

 以上の条件をふまえた上で,三好地域でのナシ栽培が十分に可能なことが証明されました。次は,普及の面です。今後はホームページやメディアを通じての情報発信をおこない,三好市ふるさと納税品目の登録を目指します。そして,高齢者でも取り組めるナシの省力栽培を目指し,狭い地域でも収量が見込める「ジョイント仕立て栽培」の普及を加速させます。

 お客様の「おいしかったよ。」の一言で,目覚めた私のナシ栽培への情熱。私は卒業後,洋菓子の専門学校に進み,ナシの甘みを生かした商品開発に新たな情熱を注ぎ,地域に貢献していくつもりです。また,後輩達を側面から指導・助言し,ナシの産地化を実現させます。そして,たくさんの方々の「おいしかったよ。」の声を聞くために・・・。そして,笑顔を見るために・・・。